エネルギー管理士は、エネルギー利用の合理化や省エネルギー化を行う専門家です。「省エネ法」に基づいて、大量のエネルギーを使う工場などの事業場で管理を行います。本記事では、エネルギー管理士の仕事や免状取得方法、資格試験の熱分野を重点的に紹介。勉強方法やキャリア・将来性も解説します。
エネルギー管理士とは
エネルギー管理士とは、「省エネ法」に基づいて、大量のエネルギーを使う工場などの事業場で、エネルギー利用の合理化や省エネルギー化を行う専門家です。資格試験には「熱分野」と「電気分野」の2種類がありますが、試験の選択科目が異なるだけで、実務上の扱いは同じになっています。
日本では、従来から石油、天然ガス、石炭といった資源を外国に依存してきました。そんな中、1970年代に石油危機が起こり、エネルギーの安定的な確保や合理的な使用が真剣に検討されます。その結果、1979年に「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」が制定。この法律によって、現場レベルでエネルギー管理を行う専門人材が必要とされ、今ではエネルギー管理士がその役割を担っています。
エネルギー管理士は、以下のどちらかの工場等でエネルギー使用の管理業務に当たります。
- 第一種エネルギー管理指定工場等(原油換算年間3,000kl)
- 第二種エネルギー管理指定工場(原油換算年間1,500kl)
該当する工場を保有する特定事業者や指定事業者は、エネルギー管理者をエネルギー管理士免状保有者の中から選任しなければなりません。そこで、工場やその他の事業場、輸送、建築物、機械器具などについて、エネルギー使用の合理化を現場レベルで管理するのが、このエネルギー管理士の仕事です。
特に、第一種特定事業者のうち以下の5業種については、年間数万〜10万klを超える場合もあり、エネルギー管理者を1〜4名選任する必要があります。
- 製造業
- 鉱業
- 電気供給業
- ガス供給業
- 熱供給業
これらの業種は有資格者が多く求められるため、資格免状取得後は活躍の可能性が高いと言えそうです。
※参考:http://www.jace.or.jp/bw_uploads/ifyQs4/Ig0eDbJZAgsyKVJd2glGCT4JQgk8ucGRm.pdf <p7,8>
エネルギー管理士になるには?試験・研修や実務条件
エネルギー管理士の免状を取得するには2つの方法があるため、自分に合う方を選びましょう。
試験に合格する
エネルギー管理士になるには、試験に合格してから、資源エネルギー庁省エネルギー対策課に郵送で免状申請を行います。試験そのものは誰でも受験することが可能ですが、免状が交付される条件は、試験合格に加えて「エネルギーの使用の合理化に関する実務に1年以上従事した者」です。
※参考:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/012/001/
試験は、毎年8月上旬に実施されています。試験課目は、必須基礎区分と専門区分の2つです。さらに、専門区分では、下の2分野に分かれています。
- 熱分野
- 電気分野
過去の合格データから合格率を計算すると、熱分野の方が合格率は高い傾向があります。試験を取り仕切るECCJ(省エネルギーセンター)が分野別データを公表している2012年までの10年間では、電気分野が熱分野の合格率を上回ったのは2度しかありません。受験する際は、得意分野にもよりますが熱分野を選ぶ方が無難といえます。
研修を受講する
もう1つは、研修を受講し修了試験を通過することです。ただし、これは試験と違ってある程度の知識・経験がある方向けになっています。
具体的には、3年以上の十分なエネルギー管理の実務経験が必要です。また、実務経験で培われた相応の知識や技術的素養を、すでにある程度備えていることが求められます。
エネルギー管理士試験熱分野の内容
これから資格免状を取得するには、実務経験が1年でもよい資格試験を受験し、なかでも合格率の低い熱分野を選ぶのが1つのパターンです。そこで、熱分野に関する試験課目の内容を重点的に紹介しましょう。
試験全体の課目と時間
試験全体の課目や時間は、下の表のようになっています。
※画像引用 https://www.eccj.or.jp/mgr1/test_guide/chap_02.html#ex07
課目Ⅰから課目Ⅳまで分かれており、マークシート方式です。それぞれ1コマ80〜110分で、試験そのものは1日で終了します。
課目Ⅰは「必須基礎区分」として熱・電気分野ともに共通の問題です。内容の例として、エネルギーを取り巻く法令や環境、工場判断基準に関する内容が出題されます。
熱分野の課目内容
熱分野の内容は、以下の通りです。
- 熱と流体の流れの基礎(課目Ⅱ)
- 燃料と燃焼(課目Ⅲ)
- 熱利用設備及びその管理(課目Ⅳ)
課目Ⅱの内容は、化学工学や流体力学の基礎です。熱力学、流体工学、熱伝導に関する基本的な知識が問われ、また、事例について計算でエネルギーの動きを求める問題もあります。
課目Ⅲは、燃料や燃焼に関する知識の問題です。燃料に関しては、石油、LNG(液化天然ガス)といったメジャーなものをはじめ、さまざまな種類まで問われます。燃焼では、燃焼計算を行って正しい燃料管理ができるための知識も必要です。
課目Ⅳの内容は、エネルギーの計測・制御と、機械に関する問題があります。計測と制御では、温度やエネルギーの計算などの内容です。例えば、加熱炉と周辺の配管を描いたモデル図を見ながら、その構造やエネルギー消費量を計算するものが出題されたことがあります。機械とは、ボイラ、蒸気輸送・貯蔵装置、蒸気原動機・ガスタービンといった大量のエネルギーを使用するものに関する知識です。
エネルギー管理士試験の熱分野科目の勉強方法
エネルギー管理士試験は、課目ごとにやや違いますが、基本の勉強方法はテキストの読み込みと過去問が中心です。
課目別勉強方法
試験課目のうち、課目Ⅰは法令に関する部分です。例年、省エネ法に関連する問題が出題されることがあり、実務でも重要になります。その他にも「京都議定書」や「エネルギー白書」といったテーマも出題されることがあります。暗記が基本のため難易度は低く、4コマのうちでは得点源なので、テキストや過去問で重要語句を重点的に勉強しておくとよいでしょう。
専門区分は、難易度が上がります。熱力学やエネルギーの動きについて、理系学部の一般教養レベルの知識が必要とされる内容です。基本的な知識の問いだけでなく、計算問題の比率が増えます。暗記だけでは通用しないため、過去問や問題集をスピーディに解き慣れておくことが重要です。
勉強に使用する教材
独学で勉強する場合、テキストや参考書、そして解説が充実している問題集があると役立つでしょう。過去問と解答はECCJのホームページで公開されているので、何度も解き慣れておくことが大切です。
もう1つ、通信講座を活用するのも有効でしょう。エネルギーの知識を扱う試験の特徴として、複雑なエネルギーの動きを示すモデル図や、知識も計算力も問われる計算問題もあり、初心者にはとっつきづらいのも事実です。通信講座にはEラーニングで動画が用意されているものもあり、理解に役立つといえます。
エネルギー管理士の将来性・キャリア
エネルギー管理士は、法律で選任が義務付けられていることもあり、一定数はなくてはならない資格です。また、省エネルギーを推進する社会情勢は広がりつつあり、活躍の場が増えていくというメリットもあります。
資格保有者への底堅い需要
エネルギー管理士へのニーズは底堅いものがあり、今後も継続すると見込むことができます。その理由は、省エネ法に基づいて、一定以上のエネルギーを使用する工場などでは必ず管理者として有資格者を選任・設置すると定められているからです。
2010年時点のエネルギー管理指定工場指定数 | |||
工場 | 事業場 | 合計 | |
第1種 | 5,740 | 2,020 | 7.760 |
第2種 | 3,890 | 3,082 | 6,972 |
合計 | 9,630 | 5,102 | 14,732 |
実際に2010年時点では、該当する工場・事業場が第1種、第2種合わせて1万4,000以上あり、活躍の場が数多くあることがわかります。
受験者にとっての人気も根強く、試験の受験者数は2010年頃から1万〜1万2,000人の間を推移しており、これは2000年台前半と比べると2〜4割ほど多い水準です。
幅広いキャリアが期待できる社会的環境
エネルギー管理士としての知見は、はじめさまざまなフィールドで求められる可能性があります。
今は地球温暖化問題もあり、環境規制が世界中で求められている時代です。また、投資・経営の世界でも環境・社会・企業統治の頭文字をとった「ESG」が注目されており、環境対策と、その一環での省エネルギーの取り組みは待ったなしの状況です。
大手エネルギー事業者や製造業を始め、多くの業種が排出量削減に取り組んでいます。エネルギー管理士の専門知識やスキルは、今後さらに多くの分野で役立つ可能性があるのです。
まとめ
エネルギー管理士とは、大量のエネルギーを使う第一種・第二種管理指定工場等で、エネルギー利用の合理化や省エネルギー化を行う専門家です。「省エネ法」に基づいて、第一種・第二種管理指定工場等には、管理者として有資格者を選任・設置することが義務付けられています。
資格免状には、通常の資格試験と、経験者向けの研修がありますが、合格率が高いのは資格試験の熱分野課目です。基礎知識のほか、計算問題も豊富なため、回答慣れしておくことがポイントでしょう。
将来性については、従来から日本はエネルギーを国外依存してきており、現在は1万4,000以上の工場などでエネルギー利用の専門知識が必要とされているだけでなく、近年は環境対策の社会的風潮が強く、有資格者の活躍の場が広がりつつあります。
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